テリジノサウルス科の一種

恐竜・獣脚亜目 中生代の生物

テリジノサウルス科の一種/Therizinosauria

福井県立恐竜博物館に展示されていたテリジノサウルス科の一種です。

すでに見つかっているテリジノサウルス科のうち、どの属に含まれるのかは、まだ不明。

クチバシのある小さな頭、長い首、頑丈な後肢、短い尻尾、これでも獣脚類。

植物食性の獣脚類です。

テリジノサウルス科の一種
テリジノサウルス科の一種
学名:Therizinosauria(テリジノサウルス類)
分類:爬虫綱 双弓亜綱 主竜形下綱 恐竜上目 竜盤目 獣脚亜目 テリジノサウルス上科 テリジノサウルス科
時代:中生代 後期白亜紀
体長:約3m
発掘地:中国 浙江省 天台県
学名の意味:テリジノサウルス=大鎌のトカゲ

テリジノサウルス科の一種

テリジノサウルス類は、白亜紀の中国、モンゴル、北アメリカから発見されています。

獣脚類でありながら植物食性の方向へ進化していったグループであり、
長い首、小さな頭、大きな胴体、クチバシを持ち、進化した仲間では尻尾も短くなっていて、獣脚類とは思えないスタイルをしています。

テリジノサウルス科の一種として福井県立恐竜博物館に展示されていた化石です。
テリジノサウルス科の一種

すでに見つかっているテリジノサウルス科のうちのどの属に含まれるのか、または新属なのかはまだ不明です。

体長は約3m。肩までの高さ約2m、頭までの高さは2.5mくらい。

ヒトと比べるとこれくらい。
テリジノサウルス科の一種

植物食性への適応、クチバシと歯

獣脚類とは思えない姿ですが、これはすべて植物食性への適応のため。

テリジノサウルス科の一種

テリジノサウルス類は、肉食性から植物食性へと食性が変わった上に、植物食性に適応するように体まで変化させた変わり者のグループなのです。

原始的な仲間では歯の数は一般的な獣脚類より少ない程度ですが、進化するにつれ歯の数は少なくなり、歯が貧弱になっています。

下から見た頭骨。口先は丸っこいクチバシで、貧弱な歯が見えます。
テリジノサウルス科の一種

イチイチ君
イチイチ君
テリジノサウルス類は、オヴィラプトロサウルス類やアルバレッツサウルス類に近いグループです。どちらのグループもクチバシを持ちます。

獣脚類の名残、骨盤

このテリジノサウルス類では、骨盤に獣脚類の特徴が残っています。
テリジノサウルス科の一種

”前を向いた恥骨(赤色)を持ち”、”恥骨の先が膨らんでいる”。”坐骨(緑色)が細い”のは獣脚類の特徴です。

イチイチ君
イチイチ君
進化したテリジノサウルス類には、恥骨が後方へ向いた仲間がいます。植物食性への適応で、消化器官を収めるスペースを確保するために後方へ向いた、と考えられています。

植物食性へ移行した理由

テリジノサウルス類が植物食性へと移行した理由はわかっていません。

前期白亜紀の終わり頃、獣脚類には植物食性、魚食性、昆虫食性などのグループが増えており、何らかの理由で食性を分けてすみ分ける方向へ進化して行った、と考えられています。

代表種テリジノサウルスの大鎌

皆さん大好きテリジノサウルス科の代表種、大きなカギ爪を持つテリジノサウルスは最大体長9.5m。

前肢の指の骨(末節骨、爪の骨)が非常に大きく、大きな鎌のような形をしていることで有名な恐竜です。

テリジノサウルスの前肢。末節骨(指の先の骨、爪の骨)の長さは60~70cmほど。
テリジノサウルス

ゲームや映画などでは大鎌の爪でぶん殴って来る恐竜ですが、テリジノサウルスも肉食性ではなく植物食性です。

爪は湾曲が浅く厚みがない(1cm程度の厚みしかない)ことから、武器ではなく、異性へのアピールや植物を手繰り寄せるために使ったと考えられています。

テリジノサウルス類の進化型の大型種は、大きな鎌のような爪を持ちますが、初期の仲間や小型種は、普通の獣脚類と同じサイズの爪を持ちます。

展示されていたテリジノサウルス科の一種も、前肢は獣脚類サイズの普通の爪です。

テリジノサウルス類の後肢

獣脚類では後肢の地面に付く指は3本で、親指(第一指)は小さく退化して人差指の隣にあるか、カカト側へ向いています。

獣脚類、ティラノサウルスの後肢。3本の指が地面に接し、小さい親指が後方へ向く。
ティラノサウルス

テリジノサウルス類では元々退化していた親指が復活しています。

体を支えるために地面に付くほど大きくなり、4本の指で地面に接しています。

親指の向きも他の指と同じ方向。
テリジノサウルス科の一種

イチイチ君
イチイチ君
テリジノサウルス類でも、原始的な仲間は地面に付く指は3本で、一般的な獣脚類と同じです。

植物を消化するための大きな消化器官を収める胴体が必要で、巨体を支えるためにこのような足指になった、と考えられています。

脳に残る肉食性恐竜の名残り

テリジノサウルス類は、原始的な仲間からすでに頭部や胴などに植物食性への適応が見られますが、
脳の構造は、嗅覚、聴覚にすぐれ、三半規管がご立派(バランス感覚がすぐれている)であることが分かっています。

テリジノサウルス科の一種

これは肉食性恐竜だった時代のなごりです。

もしテリジノサウルス類が「白亜紀末の大量絶滅」で絶滅していなかったら、これらの脳の特徴はどのように変化していったのでしょうか、
それとも変化せず、そのままだったのでしょうか。

オマケの話、浙江省天台県と天台宗

このテリジノサウルスの一種が見つかった場所、中国の浙江省天台県は、仏教の宗派「天台宗(てんだいしゅう)」発祥の場所。

天台宗は、隋(ずい)の時代(今から1400年ほど前)に、天台県のえらいお坊さん、天台大師智顗(ちぎ)が開いた仏教の宗派の一つ。

806年(平安時代)に最澄(さいちょう)さんが唐から持ち帰って教えを広めたのが日本の天台宗の始まりです。

浙江省には約8000万年前(後期白亜紀)の地層が広がっていて、たくさんの化石が見つかります。


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